[NO.19] 2・3月号 お話:竃k海道理美容企画代表取締役社長 石田 茂夫さん
聞き手:斉藤 克恵(編集委員)

 
〜コミュニティ・ビジネスの先駆をいく出張理美容
「ああ、さっぱりした。髪を切って顔を剃ってもらったらすっかり生き返ったみたいだよ。」床屋さんタイムは人々をリフレッシュさせてくれるひととき。でも寝たきりの高齢者や病院・施設の入所者は外出もままならない。そんな人たちのうれしい出張理美容。30年前にボランティアからスタートした竃k海道理美容企画はプロの技術で社会貢献・・・利用者の喜びも含めて働く人の生きがいも創出してくれるコミュニティビジネスの先駆者だ。代表の石田社長にお話を伺った。
出張理美容を始められたきっかけを教えてください。
 北海道理美容企画のスタートは、30年前。当時は理美容師の腕を磨くという意味もあり、仕事ではなく完全に無償のボランティアとしてスタートしたわけです。病院で外に出られない患者さんや施設などたくさんの希望者がいるというのを聞いて仲間を10名くらい集めて活動を始めました。
 活動にかかる経費は全て持ち出しという状態でしたから、運営は大変でした。そのうちボランティアとして訪れていた際に、病院の先生からこんなアドバイスを受けたんですね。「これでは長続きしないでしょう。こちらもみなさんの空いた時間だけでなく、もっと計画的に来てもらいた。有料にしてそのかわり、インターンではない免許を持ったプロの人間を揃えて来て欲しい。」
 それでこの活動を始めて2年ほどで無償のボランティアはやめて、サービス料金を設定して有料にしたのです。現在は技術者25名、事務2名でビジネスとして病院や施設・寝たきりの個人のお宅にうかがっています。ボランティア料金ですが、ボランティアではありません。職業人としてプロの仕事を現場に持っていっているのです。
 仕事を始めて、ある病院の院長先生にこんな言葉をいただきました。「床屋さんは本当にいいね。カットをして顔を剃ると患者さんは見違えるように明るく元気になる。家族の方もそんなうれしそうな顔をみて満足している。僕ら医療の人間がどんなにいい薬の治療をしたり注射をしても、家族の人にこんなに素晴らしい評価はしてもらえない。床屋さんはすごいよ。」
 この言葉を聞いて、私はとてもうれしかったです。「床屋」さんが素晴らしいと評価をされて、これはがんばらなくてはとやる気になりました。もちろん、理美容のプロですからサービスとしてのお客さんへの気配り、声かけも元気になってもらえる要素の一つになっているのではないでしょうか。
理美容室ではない場所で仕事するのは大変ですね。
 最近は、介護者や在宅の方の要望も増えています。寝たきりの高齢者の所へいくことも多くなりました。病院や自宅の介護ベッドをすっぽりかぶせてしまうような大きなベッド用の刈布を使っています。これならベッドも汚しませんし、明るい柄で楽しい気持ちも高めてくれます。
 このごろは、パーマやヘアダイの要望も多いのですが、自宅での洗髪は理美容師は長靴をはいて行っています。古い施設では専用の部屋などありませんから、食堂や廊下を利用するなど現場現場でいろいろ工夫して対応しています。利用者の方はいつも私たちが来るのを楽しみにしていらっしゃいますよ。言葉かけなど注意をしなくてはいけない場面もありますが、さすがにコミュニケーションはプロです。いつもお客さんに喜ばれています。
働いている方の生きがいにもつながっていきますね。
 社員は20才から60代までいます。雇用に年齢の差別なんかしません。最高齢の65歳の理容師さんも健康で働けるうちは、どんどん働きたいと言って、進んで年配の家庭を訪ねて仕事されています。培われたその技術力はすごい。手職のありがたさをつくづく感じますし、お客さんも「いくつになっても働ける。床屋さんっていいね。」といってくださいます。ろうあの方もいます。大切なのは技術です。この職場なら働けます。仲間の職人たちが助けてくれますし、逆に仲間たちは手話を教えてもらったりその人のおかげで学ぶことも多いはずです。体の不自由な人の存在は、まわりの人の心をとてもやさしくさせてくれる。
 お客さんには技術がすべて。任せていただいて信頼関係が生まれる。私は現場に行く度に、「喜ばれる仕事をしている」と実感しています。個人のお宅では介護につきっきりの家族の方がくたくたになって面倒をみておられる方もいる。私たちのいる時間はほんのひとときでも介護の手を離れて、休んでいただくことができます。
 ボランティア活動もいろいろあるでしょうが、こんなに喜ばれるものはない。働いている人たちの生きがいにもなっていると思います。ボランティアの役割を果たしながら、収入があり、生活できるのですから。そうでなければ長続きはできません。さらにお金をいただくことで本物のプロになれる。ただではだめです。「ただなんだから、それ以上の要求はしないでよ。来てあげてるんだから・・・」なんていい訳もできませんし。たったの10円でもお金をもらったら甘えは許されないんです。
雇用面やサービス面からも、まさに高齢化社会にむけてのコミュニティ・ビジネスと言えますね。
 そうですね。ボランティアでも無料でやりますという立派な会もありますが、長続きしなければ意味がない。これからは技術と信頼が人と人を結んでくれるこうしたコミュニティ・ビジネスの時代になってくるでしょう。私たちの仕事は医療新聞や専門誌、インターネットなどで知られていますが、この頃は口コミでの紹介も増えています。
 会社としての信頼は30年続けて培われたものです。病院や施設もこの会社なら安心、任せられるという技術や信用の上に成り立っています。そして利益の分担もきちんとされていることが重要。
 「働く人に厚く」これが有料で行うことの大事なことです。サービスとしHてボランティア料金にさせてもらっているというのもあります。働く人の意思で協力していただいているのですから、働く人が満足しているというのがとても大事な条件だと思います。
 経営的には利用の方には目に見えないような経費がかかっています。病院い入れば保健所の認定書、そして免許登録費、仕事の現場では移動費、一人のお客さんに対して清潔で衛生的なタオルが4本づつかかりますのでタオルリースなどの経費がかかっています。会社としての経営は厳しいものもありますが、社会貢献できるすばらしい仕事として今後もがんばっていきたいと思います。